-*- Notes -*-
  1. 給油やタイヤ交換を行う場所。また、クルーや監督がいるチームの基地となっているガレージのことをピットと呼ぶ場合もある。
  2. ピット内にあるBOXとよばれるシャッターのついた小屋部分です。ここに入ると触れてよい人数の制限はなく、自由に作業することができます。通常レースでは入ることはなく、修復が必要など深刻な事態であることを示すことにります。
  3. 速度がでなくなり、遅くなること
  4. 事故で散乱物があるなど、安全な走行ができない状況の時に入る先導車。追い越し禁止になっている状態で入り、ゆっくり走るため、全体がゆっくり隊列を組んで走行することになる。
  5. 車が滑って回ってしまうこと
-*- ReasonSet -*-

クルマを知らない・興味ない人のためのモータースポーツの話

まえがき

この記事はモータースポーツを知らない、そもそもクルマに興味がない、といった人のための記事です。

また、これはル・マン24時間耐久レースの記事ではなく、モータースポーツを語るために、おそらく100年先にも語り継がれるであろう、2016年のル・マン24時間耐久レースを題材とするものです。。

モータースポーツ

モータースポーツとは何か

街に出れば、たくさんのクルマやバイクが走っています。当たり前にそこにあるもので、それは移動のための道具であったり、物を運ぶ道具であったり。あるいは、運転が好きで、趣味でドライブを愉しむ人もいます。

そして、当然ながら、それを作る人がいます。それは毎年、新しいモデルが登場し、そのたびに技術革新があり、進化していくものです。

ではその新しい技術は、進化は、研究所で作られるのか?答はyesでもあるのですが、Noでもあります。

生まれたばかりのメーカーには技術がありません。クルマは簡単には作れないのです。かつてクルマが誕生した時、それは馬車よりもはるかに遅いもの、否、自転車どころか徒歩にも劣るものでした(時速3kmほど。女性が普通に歩く速度と同じくらい)。

自動車が馬車に代わる時代になっても、坂をのぼることはなかなかできませんでした。自動車の発明は1769年であり、内燃機関を持つ自動車の発明でも1885年だが、日本で西から東をつなぐ東海道における険しい山として知られる箱根山をクルマで一息に越えられるようになったのは、1970年代のことです。

より優れた技術を研究するため、それを実際に本当に優れているのか試さなくてはならない。そのために、世界中のメーカーがその性能を競い合ってきました。それが、モータースポーツです。それは、時に国力誇示のためであり、時に宣伝のためでもありました。

クルマ・バイクで競う競技がモータースポーツ。それは、極限のスポーツのひとつであるとされています。

種目

モータースポーツには様々な種類があります。どのような乗り物を使うか、それはクルマに限らず飛行機やボートもありますが、そのような分類に留まらず、極めて多彩なものがあります。中にはバイクで崖から飛び降りるようなものもありますし、逆に時に90度をこえる崖をクルマやバイクで駆け上る競技もあります。

けれど、もっともポピュラーなのは、サーキットと呼ばれる舗装され、安全性も確保された専用コースで先着を競う「ロードレース」。

クルマのロードレースの最高峰はF1で、これはスポーツ観戦を趣味とする人にも人気が高くて有名ですね。

バイクのロードレース最高峰はMotoGPで、日本での知名度はいまひとつですが、それでも人気は高いといえます。

サーキットは一周が一般的に3-5.5kmほど。ただ、日本で人気の筑波サーキットは2kmと短いサーキットになっています。幅はだいたい日本の道路でいうと6車線から8車線分と極めて広くなっています。道路の外側は土(抵抗で速度を落とすため)やアスファルト(クルマをコントロールできるように)になっていて、さらにその外側にショックを吸収するものが置かれています。

クルマの種類

ロードレースで使用するクルマは大きくわければ4種類。フォーミュラオープンホイールと呼ばれるタイヤがむき出しの(F1などで使われる)タイプ。これは加速も減速もものすごくて、信じられない速度で曲がるため、体にはものすごく負担がかかります。加速と曲がることに関してバイクより速いのはこのタイプだけです。

そしてハコ車プロダクションレーシングカーと呼ばれる、普通に道を走っているクルマを普通に改造したもの。場合によっては無改造だったりもします。ヴィッツレースなんていうのもあって、街でよくみかける小さなクルマがレースしたりしています。もちろん、華やかなスーパーカーのレースもあります。

このハコ車を基に…というよりも、見た目だけ売っているクルマに似せているだけで、中身は何の共通もないレーシングカーというのが、GTレーシングカー。GTカーと言ったりします。見た目は普通のクルマのようで親近感がありますが、なにせ中身は純粋なレーシングカーなので曲がる速度が全く違います。

そしてタイヤはむき出しではないけれども、元になるクルマはない、純粋なレーシングカーがプロトタイプレーシングカーです。フォーミュラほどではありませんが、とても速いです。

レースイベントを基に考えてみると、F1はフォーミュラで、フォーミュラを使うレースは興行というよりもスポーツ選手としての競技という色合いの強いイベントが多くなっています。日本で人気の高い興行レースのSUPER GTはGT500クラスはGTカー、GT300クラスはGT3と呼ばれるスーパーカーのプロダクションレーシングカーと、GTカーが一緒に走っています。ニュルブルクリンク24時間レースは様々なクラスのプロダクションレーシングカーのレースで、ル・マン24時間レースは2016年時点では2種類のプロトタイプレーシングカーと2種類のプロダクションレーシングカーの混走です。

バイクの種類

バイクの種類はもっとシンプルで、普通に道を走るバイクを改造したプロダクションレーサー、普通の道は走れないけれども一般に向けて売っている市販レーサー、そしてそもそも売っていないプロトタイプレーサーの3種類です。

基本的に見た目はあまり変わらないので気にならないと思います。純粋なレーシングバイクのほうが速いは速いのですが、バイクの場合普通に道を走るバイクであっても速いものはとんでもなく速く、またクルマと比べてはるかにレース専用車両に近いものになっているので、好きな人以外はほぼ気にしなくて良い部分でしょう。

レース専用車両で走るレースはGP(グランプリ)と呼ばれていて、ひとつのイベントの中に両方ある場合はクラスの名前が「GP」(レーン専用車両)「SP」(少改造車)「SS」(中改造車)「SB」(大改造車)とついていることで分かるようになっていたりします。最高峰、MotoGPはレース専用車両でのレースで、MotoGPとMoto3クラスは市販レーサーとプロトタイプレーサーを使用。Moto2クラスはちょっと変わっていて、車体はプロトタイプなんですが、ルール上それを一定数以上販売しなくてはいけなくて、さらにエンジンは公道車両用のエンジンを専用に改造したものを主催者が割り当てて参加者は選べない、という方式です。

人気

ヨーロッパで人気スポーツといえば、「サッカー」「自転車」そして「モータースポーツ」です。

ヨーロッパではモータースポーツのスター選手は非常に人気があり、英雄として扱れます。収入も、サッカー選手のトップ選手に迫るほど高くなっています。

ロードレースと速度

F1の最高速度記録は371km/h。MotoGPでは343km/h。トップカテゴリーのレーシングカーは、カテゴリーやコースによって違いはあるものの、だいたい「出て340km/h」というものが多いように感じます。新幹線の営業運転最高速度は300km/hであり、それよりもはるかに速い速度で走ります。

一方、曲がる時は遅い速度で50km/h近くまで減速します。加速力・減速力は新幹線とは比べ物にならず、加速で2G、減速では5Gにも達します。これは、猛烈な加速に感じる発射式のジェットコースターよりも急激に加速することになります。

「スポーツ」としてのモータースポーツ

モータースポーツは道具が戦っているように見えてeスポーツ同様、「スポーツ」感がないと感じる人もいるようですが、そんなことはありません。

5Gなどというのは日常レベルからはほど遠い途方もないものです。曲芸飛行の軽飛行機でもそんなGを体験することはなく、そんなGを発生するのは戦闘機くらいのものです。訓練していない人では、首の骨が切断されてしまいます。5Gということは体全体で自分の体重の5倍の力がその方向にかかるということ。首が折れてしまうのは、頭の重さの5倍の力で頭が急激に押されるためです。

レース中のドライバーの心拍数は160から200程度と言われています。比較的落ち着いている時でも120を切ることはあまりありません。無酸素運動の時間が非常に長く、肺機能が問われることに。当然、激しいGでは肺も押しつぶされてしまうため、呼吸はかなり制限されます。

これに耐えるため、強靭な筋力と心肺能力が必要になります。特に超高Gがかかるフォーミュラの場合は極めて強靭な体が必要となり、ドライバーが歳を重ねて肉体の衰えと共にフォーミュラは無理だけれどもGTカーであれば、とカテゴリをかえるケースもよく見られます。

300km/hの世界では全てがその速度でながれます。300km/hで進んでいる時、1秒で83m進む。普通ならずっと先にあるように見える壁に、まばたきをしている間にぶつかってしまいます。それだけ動体視力、反射神経、瞬発力が必要ですし、先を読むことも必要になってきます。常に300km/h一定で動いているわけではありません。左右にも動きますし、速くなったり遅くなったりもします。これに対応する必要があり、見た目に反して非常に激しい運動です。

バイクの場合はクルマのように高いGはかかりませんし、旋回中は傾いているために遠心力によるGは体の上から下にかかる(つまり、シートに押し付けられる)ためそれほど筋力でGに対抗する必要はないものの、完成エネルギーが働いているバイクを倒したりと全身で駆ることとなり、運動強度こそ低いものの、クルマよりさらに激しい全身運動になります。

日本とモータースポーツ

日本はクルマでは販売台数世界一を記録するトヨタ自動車があり、メーカー別販売台数を見ても日本メーカーがトップ。日本メーカーも海外生産を進めていますが、生産量で見ても中国、アメリカに続く第三位です。バイクにおいては、「バイク4大メーカー」といえば日本のホンダ・ヤマハ・スズキ・カワサキであり、文句なしに「世界一のバイク大国」となっています。世界グランプリにおいても、1970年代からずっと日本メーカーの独壇場が続いています。

にも関わらず、国民のモータースポーツへの関心度は極めて低く、それどころかクルマ・バイクに対する興味、理解も先進国らしからぬレベルです。気にするのは燃費ばかりで技術に対する関心もなく、運転に対する意識も低くて本来避けられる愚かな事故もとても多い。スポーツカーやスポーツバイクを敵視し、迫害する風潮もあります。

ただ歴史を振り返れば、1970年代から1990年代前半にかけて、クルマやバイクが極めて人気があったこともあります。スポーツカーもスポーツバイクも、他の国からすれば非常識なほど多彩にラインナップされ、F1や世界グランプリに熱狂していました。トップ選手はヒーローであり、CMに少女マンガに欠かせないアイテムとしてバイクが登場する、そんな時代もあったのです。

現在、日本で開催されている世界選手権は、クルマではF1(静岡県・富士スピードウェイと三重県・鈴鹿サーキットの交互開催), WEC(静岡県・富士スピードウェイ), WTCC(栃木県・ツインリンクもてぎ)です。バイクではMotoGP(栃木県・ツインリンクもてぎ), トライアル(栃木県・ツインリンクもてぎ), WEC(三重県・鈴鹿サーキット)が行われています。

モータースポーツのみどころ

全般

モータースポーツはやはり、スピードと、素晴らしいサウンドがひとつの魅力だと思いますが、それだけではありません。

ひとつの大きな魅力として、「先にいくことが勝負になるスポーツである」ということがいえます。ほとんどのスピードスポーツでは、途中順位というのはそこまで重要ではありません。もちろん、一度李が重要になる場合もありますが、基本的には個人の能力差が決まるもので、位置そのものが勝敗となることはあまりありません。

モータースポーツのレースの場合、前にいくことこそが重要となります。それだけ抜くのが難しいからです。どれだけ速く走れる選手でも、前を塞がれてなかなか抜けなくては勝つことができません。オーバーテイク、抜き去るということ自体がレースという勝負になっています。

しかし、実際に抜き去るためには遅く走らなくてはなりません。前にいるほうが断然有利である上に、前にいるほうが優先権があり、接触した場合は後ろにいる車の責任になります。前にいる車は自分がどの位置を走るか選ぶことができます。基本的には、スピードが出る位置を走るほうが得です。抜こうと思うと、その位置から外れなくてはいけません。それでも抜けるのは、追い抜いた側が前になることで、抜かれたほうは加速できる状態でも前にいるから加速できない…という状態になるためですが、その失速した状態で前にいけるスペースができてしまうと抜き返されてしまいます。どこで勝負をかけるか、という駆け引きも重要になってきます。

駆け引きは様々な面で登場します。車のレースの場合は、周回遅れの車がいる場合、わざとその車の後ろにギリギリまでつけてから突然横によけるということをしたりします。すると、後ろにいた車は、前がいなくなると突然その前に遅い車がいるわけで、減速するしかありません。そのロスは大きく、一気に差が開いてしまいます。

また、前にいる車のすぐ後ろにつけると、前にいる車が空気を切り裂いているために車の後方は空気が薄く、結果的にまわりの空気がその位置に日はこまれるスリップストリームという現象により、前にいる車は後ろに、後ろにいる車は前に引っ張られる現象がおきます。一方でうしろにいれば前の状況が見えづらくなります。前にいればタイヤカスなどのゴミを拾って壊れてしまう可能性が高まります。そのため、多彩な戦術が必要になります。

戦略としてはタイヤ選択もあります。タイヤの種類としては、雨がひどい時などにはく、低温でも機能するレインタイヤと、高温で素晴らしい性能を発揮する溝のないスリックタイヤがあり、その中間としてインターミディエイト(浅溝のレインタイヤ)があります。また、温度はあがるものの水もあるような時のため、スリックタイヤに溝を掘ったカットスリックもあり、天候が怪しい時には勝敗をわける選択になります。加えてコンパウンドの違い、構造の違いなどもあります。コンパウンドはやわらかいもののほうが速く走ることができますが、耐久性がなく、走っていると早く性能が落ちて遅く、走りにくくなります。

スプリントレース

短距離で一気に勝負を決めるスプリントレースは、「速さ」という点でナンバーワンです。「速さを競う」「実力を競う」という面が大きく、ガチンコの勝負となります。

早く前に出ないとまけてしまうため競り合いも激しく、ミスをしたら終わり。激しい勝負も見どころです。

耐久レース

何人ものドライバーが交代しながら何時間も走る耐久レースはドラマメーカーです。長く走れば車も壊れるかもしれませんし、ドライバーも疲弊します。ほんのちょっとのミスが致命的になるかもしれません。それは、ドライバーがぶつけたということのみならず、メカニックがネジを1本締め方が甘かったという場合でもです。

さらに、ピットに入って給油、タイヤ交換をする必要もあり、そのタイミング、給油する量、ドライバー交代のタイミング、誰をどれだけ走らせるか、マシンにダメージがあれば修復を行うのか行わないのかといった戦略が勝敗を分けます。

しかも、走りで1秒詰めるのは困難ですが、ピットでの作業では簡単に数秒の差が出ます。ピットワークの速さも求められます。

長く走るぶんだけ、思わぬトラブルやクラッシュでのリタイアも増え、信じられない逆転劇も生まれます。耐久レースはいつもドラマを生み、そして完走した全てのものが勝者と讃えられます。

長く走るために安定した走りをし、オーバーテイクシーンも少なく、終盤には大差になってしまうこともあるため派手さにかける耐久レースですが、思わず涙する数々のドラマを楽しみたい人におすすめです。

セミ耐久レース

セミ耐久レースは1から3回程度のピットインを行うレースで、スプリントレースの競い合いに、ピットでの戦略やピットワークの速さという要素を加えたものです。距離が短く挽回できないため、ピットワークが猛烈に速いのもみどころのひとつです。

人気の高いF1やSUPER GTもセミ耐久レースとなっていて、レースのみどころの幅をひろげています。

ル・マン

ル・マン24時間レースとは

フランスの中部、ル・マン市で行われる歴史ある耐久レースです。初開催は1923年。F1モナコグランプリ、アメリカのインディ500と並び「世界三大レース」と呼ばれ、またデイトナ24時間耐久レース、スパ・フランコルシャン24時間レースと共に世界三大耐久レースとも呼ばれています。

その名の通り、決勝レースは24時間連続で走り続ける、過酷な耐久レースです。

コースはサルト・サーキット。このコースは、競技専用のサーキットであるブガッティ・サーキットの一部と、ル・マンの市街地を連結した24時間レース専用のコースです。ちなみに、バイクでも同名の耐久レースを行っていますが、そちらはそこまでの歴史はなく、コースもブガッティ・サーキットを使用します。

サルトサーキットは全長13.629km。普通のサーキットの2-3倍ほどの長さです。一般道部分は道幅も狭く、路面も荒れていて、外側にエスケープゾーン(コースアウト時の安全地帯)も狭く、しかも排水性を考慮したかまぼこ状。非常に走りにくく困難なコースです。ユノディエールと呼ばれる直線部分はもともとは6kmもあり、現在は途中減速させるためのきついコーナー(カーブ)であるシケインを2つ配置して3分割していますが、それでも現在のマシンで340km/hにも達します。6kmの直線だった時には300km/hで走っても1分以上かかり、ついには400km/hに達し45秒で走りきるクルマも登場しました。

季節は短い夜を迎える夏、6月のはじめから中旬。ドライバーは3人交代。クルーは交代せず、ドライバー走行中に仮眠をとることもありますが、何かあればすぐに動けるようにスタンバイしなければなりません。

クルマはプロトタイプレーシングカーのLMPと、プロダクションレーシングカーのGTの2種類。2016年は非常にパワーがあり速いLMP1、パワーはないものの曲がるのは速いLMP2、GTの速いほうGTE-Pro、GTの遅い方GTEの4クラスがあり、これらは混走で一緒に走ります。また、LMP1クラスはメーカー系はハイブリッドシステムを搭載し、エンジンと電気モーターのふたつのパワーで2倍の力を発揮するLMP1-Hとなっており、メーカー系でないチームのマシンとは大きな差があります。LMP1クラスからGTEクラスまでは速度差もタイム差もすさまじいため、速いクラスのマシンはレース中、数え切れないほど遅いクラスのクルマを追い越すことになります。前が詰まってしまうと遅いクルマの速度でしか走ることができず、非常に大きなロスになります。

LMP1クラスは一周およそ3分21秒から3分25秒程度。コースの長さの割にタイム的には普通のサーキットの2倍もいかない程度であることが示すように、非常に高速のコースです。

ドライバーにもクルマにも過酷な24時間。日が暮れてからのナイトセッションは困難で、多くのクルマが消えます。さらに魔の時刻が夜明けであり、疲れから意識が遠くなり、さらに疲れた目は明るさの変化についていかず、しかも距離感も速度缶もコース幅も全く違って見えてくることからクラッシュも多く、さらに酷使されたクルマが夜間のちょっとした接触やコースアウトによるダメージをためこみ、ペースアップで傷口が開く時間帯でもあります。

24時間の耐久レースは走りきるのも困難。まさに、完走した皆が勝者でもあります。しかし一方で非常に速いクルマで戦う耐久レースであり、LMP1クラスはメーカーの威信をかけた戦いでもあります。

ストーリー

アウディの物語

1999年に初参戦したアウディ。初参戦とはいえ、1998年までポルシェを走らせていた名門・チームヨーストが走らせることとなり、最初から巧みな戦いを展開。「ル・マンに最適なマシン」を探るため、1年目はなんと全く異なる(制作を以来したメーカーも異なる)2種類のマシンを投入。チームヨーストのアウディR8Rは3位・4位を獲得。アウディUKのR8Cは2台ともリタイアとなりました。

アウディチームヨーストは無敵の強さを発揮。2000に2年目にして勝利を手にすると、2002年まで3連覇。2003年こそベントレーに勝利を明け渡したものの、2004年から2008年まで5連覇、2009年にプジョーに破れ、2010年から2014年まで5連覇と無敵の強さを誇り、次々と記録を打ち立てました。この強さから、「ル・マンの鉄人」「新耐久王者」と呼ばれるに至ります。

アウディはチームワークもすばらしく、2014年には 予選中に270km/hでバリやをこえフェンスに激突。マシンは粉砕され跡形もなくなってしまいました。 。しかし選手は無傷に誓い軽症。マシンはもはや跡形もないため当然、リタイアと思われました。ところが、チームは「諦めていない」と発表、なんと6時間ほどでマシンを1台組み上げ、翌日のセッションに間に合わせてきました。ターボ交換など普通なら鮮烈を離れるほどのトラブルでも数分で復帰、「不死身のアイディ」とも言われます。

2015年は復活した王者ポルシェに敗北。雪辱を誓い、2016年は革新的なマシンを投入しました。しかし、いまいち機能せず、トラブルも多くWECのここまでのラウンドでうまく走れていません。いまだ連敗経験のないアウディ。波に乗れない中でル・マンでの復調を狙い最善を尽くします。

ポルシェとは同じフォルクスワーゲングループではありますが、マシンは全くの別物です。

ポルシェの物語

ル・マン撤退の1998年までに16勝を挙げ、「耐久王者」としてその名の轟かせたポルシェ。しばらくの参戦休止を経て2014年、ル・マンに復帰。旧王者対新王者の戦いとなりました。

しかしル・マンは厳しく、14号車は序盤から燃料計トラブルに苦しめられ、ガレージに出たり入ったりを繰り返します。一方快調に走り続ける20号車はアウディと接戦を展開。レース途中までリードする展開だったものの、終盤、アウディ2号車の猛烈な追い上げでピットストップの間に逆転。接戦をみせたものの、残り2時間というところで20号車は突如スローダウン。ギアボックスのトラブルでそのままリタイアとなりました。

雪辱を誓った旧王者。2015年はポルシェが予選から恐るべき速さを店、2008年に樹立されたコースレコードを2秒近く短縮する新記録。決勝も終始リード。アウディが修復に手間取るなどらしくない展開となる中、完璧なレース運びで勝利を収めました。

2016年も非常に好調で、とんでもない速さを見せると予想されるポルシェ。メーカー最多の17勝を挙げる復活の王者の快進撃は続くのか。

トヨタの物語

1987年に初参戦、それ以降も途切れ途切れに参戦するトヨタは、「勝利の女神に嫌われている」として有名です。いつも素晴らしい速さをみせ、勝ったと確信させるところまでいっても勝利はこぼれてしまう。それがトヨタのル・マンでした。

1994年、残り1時間15分の時点で2位のダウアー 962LM/ポルシェに9分もの差をつけ、このまま走りきるだけで優勝、というところまで来ていました。しかし、シフトリンケージ破損でスローダウン、スロー走行の後ピットに戻って修復したものの3位まで転落、その後攻め続けたものの2位。

1998年は圧倒的な速さから本命視されたTS020を投入。勝利は確実と思われたものの決勝ではミッショントラブルが多発。ミッショントラブルで2度の修理をしながらも1位を快走する日本人3人がドライブする29号車も残り1時間15分でリタイア。1999年は信頼性も向上させ、さらに圧倒的な速さに磨きをかけ、予選でも他を圧倒。しかし1号車、2号車は夜間のクラッシュでリタイア。日本人3人が駆る3号車はチームから抑えるよう指示がでていたものの、この状況を受けて勝利を狙う作戦に変更。強烈な追い上げでこのままのペースでいけばゴールまでに1位に出るという状態で残り1時間、遅いプライベーターのBMWがトップを走るBMWを擁護するように進路を妨害、これに誘発されてタイヤが破裂し、なんとかリタイアは免れたものの2位に終わりしまた。

2012年のTS030はトップにも立ったものの1台はクラッシュ、もう1台はトラブルでリタイア。2013年は猛烈な走りでアウディをかわし、トップに浮上した途端下位クラスのフェラーリが横からつっこんでしまい宙を舞う大クラッシュでリタイア。2014年はトップ走行中、残り9時間電気系トラブルでリタイア。

2015年はアウディ、ポルシェの速さについていくことができず、「またやめてしまうのでは」と言われていました。しかし2016年、「トヨタよ、敗者のままでいいのか」というキャッチコピーで自らを追い込み、トヨタではなく、トヨタ社長である「モリゾー選手」の勅命プロジェクト「トヨタガズーレーシング」としてエントリー。WECの中でもル・マンに焦点を絞り、並々ならぬ意気込みで作りあげたニューマシン「TS050 HYBRID」。18回目の挑戦、悲願の初優勝なるか。

2016年のル・マン24時間レース

フリー・予選

自動車レースの一般的な方式として、フリープラクティスで自由に走行し、コースやクルマの状態を確認したあと、予選を行います。決勝では予選順位に従ってクルマが並べられるため、予選順位が良いことは良い位置でスタートでき有利ということになります。

水曜日のフリープラクティスから天気が悪く、木曜日、金曜日の予選では土砂降りの雨。すでに波乱を感じさせます。

心配されるのがアウディ。フリープラクティスから調子が悪く、まともに走れてもいない状態。走ってもタイムが伸びません。

一方でトヨタTS050はかなり速く、好調ぶりを見せつけます。しかし王者ポルシェはやはり強烈な速さ。なかなか追いつけません。しかし去年のように勝負にならないということはなく、状況次第では…と期待させます。

予選結果はポルシェ(#2), ポルシェ(#1), トヨタ(#6), トヨタ(#5), アウディ(#7), アウディ(#8)の順。

決勝

スタート進行中降り出した雨は、スタート時間には猛烈な土砂降りに。何も見えない状態でスタート時刻を迎え、結局セーフティカースタート。前が見えない、中継でもTV画面はまっしろという状況の中で約1時間の隊列走行でスタートとなりました。

1時間後、#{n("コースが安全であることを示す旗。イエローフラッグの効果を打ち消すことを意味する。", "グリーンフラッグ")}が振られ、いよいよ本格的にレーススタート。そしてスタート直後、トヨタ6号車がポルシェの2台を抜き去りトップに出ます。しかしそこはポルシェ。1号車はすかさず抜き返し、ポルシェ、トヨタ、ポルシェ、トヨタの順に。しかしトヨタ5号車は序盤から失速、猛烈に追い上げるのが、かつては日本のSUPER GTを走っていたアンドレ・ロッテラー選手が駆るアウディ7号車。トップはトヨタ#6/ポルシェ#1/アウディ#7の3台が触れそうなほどの接近戦で進行します。

ル・マンは24時間後の勝負であり、他の車と直接競争することはマシンにもドライバーにも負担がかかり避けたいところです。しかし、有意性を示して心理的に有利にするためにも、また接戦を楽にするためにも決して引けません。アウディ#8のペースが上がりませんが、トヨタ#5も追いつき、ついに5台の戦いに。

そして事実上最初のピットインを迎えます。しかしここでなんと、トヨタはポルシェとアウディが入ったタイミングで入らず、1周遅く入りした。作戦なのか、しかし路面は乾いていく状態、雨用のレインタイヤを履いているトヨタですが、ポルシェとアウディは乾いた路面用のスリックタイヤに交換。トヨタよりずっと速いペースで追い上げます。ポルシェ、アウディのピットの間に首位を走ったトヨタですが、トヨタ#6がピットから出た時の位置は3番目。作戦は失敗したように見えました。

しかしトヨタはすぐさまおいつき、再び接近戦を繰り広げます。近い時には3台で6秒、開いてもピット後は14秒。くっつきそうなほどの接近戦で前を行くのは俺だとばかりに激しい戦いを繰り広げます。次のピットでもポルシェとアウディが先。トヨタは1周長く、ピットに入って首位交代、トヨタがピットから出てくる時に首位交代、と繰り返します。ところが、アウディはこのピットから出てくることなくガレージインとなりました。外装を取り外し大掛かりな修復。アウディの不安が早くも出てしまいました。この7号車は結局ガレージを行ったり来たりすることとなり、下位で終わることになります。

ピットごとに順位が入れ替わり、接戦になるという展開が何時間とくりかえされます。長いレースなので当然、ペースを落とし確実に走るべきですが、相手がこの状態ではそうはいきません。スプリントレースのように全力です。ポルシェ2台、トヨタ2台入り乱れての接戦。基本的な順位は#1, #6, #5, #2でしたが、一見有利に見える#1も、実はトヨタが毎回1周長く走っているというのがポイントでした。1回のピットはどんなに短くても20秒はかかります。給油だけで30秒、タイヤも交換すると1分30秒といったところ。コースは1周せいぜい3分25秒。差は開いても30秒。もしずっとトヨタが1周長く走り続けるのであれば、トヨタは24時間でピットが2回少ないことになります。先行している#1ポルシェ、しかしレースを支配しているのは2台のトヨタでした。

夜間に#6トヨタは元F1ドライバーの小林可夢偉選手がGTEクラスの車両と軽い接触。小さなダメージながら影響を受けてしまいます。スタート10時間の現地時間23時、トップを争っていた#1ポルシェはトラブルからガレージに入り、修復。それなりに大掛かりな作業となり、9周遅れとなってしまいました。接戦の中、もはや優勝の目はありません。一方、序盤遅かった#2ポルシェがスピードアップ、一気にトヨタを抜き去りトップに出ます。

夜が明けて、#5トヨタが#6トヨタをパス、さらに前にいた#2ポルシェもパスして#5, #2, #6の順に。1画面に収まる距離。ピットごとに順位に入れ替わりますが、#2はまだゴールまでにトヨタより1回多くピットに入らなければなりません。このままでは負けてしまう。チーム無線から「攻めろ、攻めろ!」との指示が飛びます。#2ポルシェに1分30秒と水を開けられた#6トヨタ、小林可夢偉選手が奮起し、21秒台の驚異的タイムで一気に肉薄、あと16秒まで迫ります。#2ポルシェの無線では「小林がきてる!逃げろ!逃げてくれ!」と必死の指示。同じシケインに映り込むところまで迫った時、小林可夢偉選手は痛恨のスピン。差は48秒に広がり、残り4時間。タイムが1秒も違わない中では、何もない限りはとてもおいつけません。トヨタは結局、次のピットで蓄積したダメージの修復を決断。優勝戦線を外れ、確実にゴールすることを選びました。

あとはもう、トップを走る#5トヨタと#2ポルシェの一騎打ち。トヨタがピットに入ればポルシェが前、遅れても30秒以内に張り付いてはいるものの、残り時間はもう1時間を切っています。1時間で20周もできません。#5トヨタの中嶋一貴選手は快調に走り続けます。最速タイムを記録しようかという、素晴らしい走りです。24時間の全力疾走。狂気の沙汰です。

残り20分。ポルシェが予定にないピットイン。なんと、タイヤのパンクでした。素早くタイヤを交換し送り出すものの、#5トヨタとは1分半の差。

「勝負あった」

誰もがそう思いました。

残り12分。#5トヨタが突然のスローダウン。速度が出ません。周回遅れの#6トヨタがユノディエールでパスしていきます。「ノーパワー」。中嶋一貴選手の悲痛な声が無線で響きます。どんどん落ちていく速度。残り5分。フィニッシュラインを通過したところでついに停止してしまいます。フレッシュなタイヤで激しく攻め込む#2ポルシェ。残り3分。無情にもポルシェが通過していきます。

ポルシェのピットでは衝撃のあまりドライバーが倒れ込み、トヨタのピットでは信じられないといった表情で呆然とするばかり。なんとか再起動し動き出した#5トヨタ。10分15秒後、ホームストレートへと帰ってきました。拍手で迎えられるTS050。しかしながら、ル・マンの既定では、最終周回は6分以内でなければなりません。無念、残り5分までレースを完全に支配していた#5トヨタは失格となり、完走すらできませんでした。

言葉たち

Andre Lotterer(アウディ7号車ドライバー)のツイート

Omg. I though we had a bad day @24hoursoflemans but what happened to Toyota was just saddest thing I ever saw. Win was yours @Toyota_Hybrid

Anthony Davidson(トヨタ5号車ドライバー)のツイート

I'm proud of my team @Toyota_Hybrid and my team mates for putting up such a fight. We almost had it, but congrats to @Porsche_Team

アウディの言葉

今年のル・マンは、なぜ世界で最も困難なレースであるかを再度示す週末だった。2台のマシンを無事チェッカーまで運んだチームを誇りに思うが、これは明らかに我々が望んだ結果ではない

ポルシェには2年連続勝利という成功に対し、おめでとうと伝えたい。そして、素晴らしいレースを戦い、18回目の挑戦にもかかわらず、またもほんのわずかに勝利に手が届かなかったというトヨタの結果は、このル・マンというレースがいかに難しいかを大いに物語っているだろう

(アウディ チームヨースト プレスリリース)

ポルシェの言葉

まず第一に、トヨタがレースを通じてみせたセンセーショナルな戦いぶりに敬意を表したい。彼らとは素晴らしい戦いを演じた。勝利を手にするほんのわずか前まで、我々は2位という結果を受け入れていたんだ

私はバイザッハ、そしてここル・マンでの素晴らしいチーム、そしてすべてのポルシェの従業員とファンに声援を感謝したい

(ポルシェ LMP1担当 副社長 フリッツ・エンツィンガー)

まずケルン(トヨタ・モータースポーツGmbHの本拠地)の友人たちを気の毒に思う。あんな形で偉大なレースの勝利を手放してしまうことは、“最悪の敵”であろうと望まないことだ

だけど、これがスポーツというもので、良い時も悪い時も必ずある。だからこそ我々がこの競技を愛するんだ

我々は力強く戦い、勝利を収めた。トヨタにずっとプレッシャーをかけなければならず、レースを通じてフラットアウトを強いられた。ドライバーはずっとギリギリの戦いを求められたんだ。首位交代はとてつもなく多かった

(ポルシェチーム代表 アンドレアス・ザイドル)

トヨタの言葉

ついに悲願達成か……と、誰もがその一瞬を見守るなか、目の前に広がったのは、信じがたい光景でした。トヨタのクルマも速く、そして強くなりました。しかし、ポルシェはもっと速く、そして強かった……。決勝の24時間……そして予選なども含め合計で30時間以上となるル・マンの道を、誰よりも速く、強く走り続けるということは、本当に厳しいことでした

チームの皆の心境を思うと……。そして、応援いただいたすべての方々へ……。いま、なんと申しあげたらよいか、正直、言葉が見つかりません。我々TOYOTA GAZOO Racingは“負け嫌い”です。負けることを知らずに戦うのでなく、本当の“負け”を味あわさせてもらった我々は、来年もまた、世界耐久選手権という戦いに、そして、このル・マン24時間という戦いに戻ってまいります。もっといいクルマづくりのために……。そのためにル・マンの道に必ずや帰ってまいります

ポルシェ、アウディをはじめ、ル・マンの道で戦ったすべてのクルマとドライバーの皆さまに感謝するとともに、また一年後、生まれ変わった我々を、ふたたび全力で受け止めていただければと思います。皆さま、“負け嫌い”のトヨタを待っていてください。よろしくお願いいたします

(トヨタ社長 豊田章男)

オリバー・ジャービス(アウディ8号車のドライバー)のコメント

表彰台に立っているべきはトヨタのドライバーたちだ。これは僕たちが表彰台に立ちたかった方法じゃない。もちろん僕たちはハードに戦ったし、自分たちの仕事をした。だけど、これが望んだレースの終わり方じゃないことはみんな同意してくれるはずだ

僕は個人的にはトヨタのドライバーたちを良く知るわけじゃない。だけど、彼らのことを思うと内臓がえぐられるような思いだ。僕は自分のあるべき立場で、彼らがハードワークに報われた勝者としてポディウムに立つのを見るべきだったんだ

こんなレースは二度と見ることはできないだろう。エンジンにしろターボにしろ、23時間57分走ったものが壊れると誰が思うだろう? 僕の気持ちは自分のパフォーマンスよりもトヨタにあるよ。すごく重たい気持ちだ

ステファン・サラザン(トヨタ6号車のドライバー)のコメント

僕たちは2015年から大きなステップアップをして、素晴らしいクルマを作り上げたんだ。どちらのクルマも速かったんだよ

何が起きたかは分からない。彼(一貴)は僕を待って、フィニッシュに向けて一緒に走るのだと思ったんだ。でも彼は問題を抱えていたので、オーバーテイクした。これがル・マンでレースをするということなんだと思う。でも、こんな結末は悲しいよ

マイク・コンウェイ(トヨタ6号車のドライバー)のコメント

一貴は動けなかった。本当に心が痛い。彼らは勝利にふさわしかった。でもこれがレースなんだ。最後の最後まで何が起きるか分からない

ロマン・デュエ(ポルシェ2号車のドライバー)のコメント

僕たちはみんなトヨタのことを悲しんでいる

僕たちにはチャンスがないと思っていたので、何が起きたのか分からなかったんだ。誰も予測していなかったよ

すべての人々がずっとこの先の未来、このレースを忘れることはないだろうね

ツイート集

中嶋一貴選手の「No Power !」という叫びの無線が耳について離れない……。 https://t.co/zjaX5iG5wi

#ル・マン24時間 「No Power No Power…」終了5分前に飛び込んできた中嶋一貴の悲痛なコールを忘れることは無いだろう。偉大なレースを飾る強烈なエピソードだ。 Going Own Way. https://t.co/9KuY8PuYVb

しかしあの瞬間の中嶋一貴の気持ち考えたら心底ゾッとしてくる。これ以上の悪夢がそうあるとは思えない。

帰ってきた… お帰り… #LM24jp #WECjp #LeMansJP https://t.co/tawIWWxZTI

ル・マン24時間、パブリックビューイングのお仕事を終え帰宅しました。中嶋一貴選手の、悲痛な無線の声が耳から離れない…ステアリングを握っていた彼の気持ちを思うと、そして心血を注いで開発をされてこられたチームの落胆を思うと、言葉にならないです。チームの皆さん、本当にお疲れ様でした。

(モータージャーナリスト 今井優杏)

Heartbroken.

(TOYOTA WEC Team)

あかん。色んな人の顔が浮かぶ。その人達の気持ち考えたら胸が締め付けられる。でもレースを支配したのはトヨタ。胸を張ってほしい。お疲れ様でした。

(レース監督・元選手 脇坂寿一)

トヨタ優勝おめでとうの下書きツイート、何年でも何百年でも取っとくから絶対諦めんなよ。絶対勝つって信じてるから!みんな待ってるから!めげずに頑張れよ!トヨタはみんなの、日本の星なんだから! #WECjp #LeMansjp #LM24jp

トヨタはレースの神様に「見放された」のではなく「気に入られた」のだと思いたい。 「ここで勝ってやめられたら私つまらないわ、やめないで来年もル・マンに来なさいよ?」 レースの神様に、そう言われたのではないかと思います。#LeMansjp

さらなるドラマたち

Ford GT

Ford GT40は1964年に登場した、フォードのレーシングカーです。これはプロトタイプレーシングカーであり、今でいうLMP1クラスに相当するクルマです。

毎年改良を重ねたFord GT40は1966年から1969年の4年間、ル・マンを連覇しました。圧倒的な強さを誇るポルシェ、フェラーリを打ち破っての偉業であり、栄光のアメリカ史の一部となっています。

2003年、そのFort GT40そっくりの形をした限定生産のスーパーカー、Ford GTが誕生します。見た目こそそっくりではありますが、最新の技術で作られたスーパーカーであり、公道を走るためのクルマです。

2015年、その2代目が登場します。生産は2016年後半から。初代とは異なり、GT40の面影を残しながらも、その姿はまさに現代的なスーパーカー。高級スーパーカーであるランボルギーニ・アヴェンタドールと同程度、39万ドルくらいという途方もない高額で(初代は14万ドル程度)、世界トップクラスのスーパーカーとして蘇らせようとしています。フォードのスポーツカーというとマスタングですが、あちらはどちらかというと一般でも低価格で買いやすい、雰囲気を楽しめるスポーツカーという趣であり、決して速いクルマではありません。フォードには本格的にレースをしたりするようなクルマがないのですが、そんな位置づけのクルマとして誕生させようというのでしょう。

そして今年、Ford GT40のル・マン優勝50周年を記念し、まだ販売されていないFord GTをベースとしたレーシングカーを4台、GTE-Proクラスに送り込みました。

今年のGTE-ProクラスはLMP1以上のどつき合い。途中コルベットやポルシェが絡む時間帯もあったものの、結局は最後はリシ・コンペティツィオーネチームのフェラーリ488 GTEとの戦いに。フェラーリの買収交渉が決裂し、打倒フェラーリに燃えて制作され、フェラーリと激しい一騎打ちを繰り広げた1966年を再現したかのようなです。

LMP1同様、最後まで同一周回、テレビの一画面に収まる距離で抜きつ抜かれつの戦いを24時間もの間繰り広げたフォードとフェラーリ。軍配はフォードに上がりました。

四肢切断のドライバー

フランス西部自動車クラブ推薦特別枠「ガレージ#56」からエントリーしたLMP2クラスの84号車。本来、この枠は未来技術を研究するためのクルマをエントリーさせる枠であり、これまでは電気自動車などがエントリーしてきました。

今回は少し違うエントリーです。

このマシンを駆る、フレデリック・ソーセ選手は48歳。彼は2012年の休暇中、「皮膚の壊死性感染症」に感染し、わずかな傷が原因で四肢を切断しました。世界でも年間40例、致死率85%の珍しい細菌による感染症です。

手術から4ヶ月後、彼はル・マンに挑戦しようと夢を描きます。「人生に新しい意味を与える必要があった」そう語ります。

2015年2月、はじめてレーシングカーをドライブします。切断された右腕に操作棒を、そして足先には特別な義足を装着して。

そしてその1年少し後、LMP2 モーガン・日産のマシンを改造、主催者と安全性を含めた健闘を重ね、射出装置を備えたマシンで出場を決めます。パートナーにはル・マン経験豊富なベテランドライバー、クリストフ・ティンソー選手。マシンは屋根がないタイプで、ドライバー交代はピットレーン上ではマシンに同時に触れていいスタッフの数が決まっているため、一旦ガレージに引き入れ、釣り上げる形で行います。

果てしなく過酷なル・マン24時間レース。プロドライバーでも容易ならざるLMP2マシン。それは信じられないような、呆れたくなるような、途方もない挑戦でした。

しかし彼は69周遅れ、315周を走りきり、全60台、完走44台中38位でゴールしました。

2016年ル・マン LMP2 84号車
2016年ル・マン LMP2 84号車

おすすめのレース

SUPRT GT

高度に興行化された日本のレースです。GT500, GT300というふたつのクラスの混走で、激しいオーバーテイクや、遅い車の処理といった要素もあり、車も見慣れた車の超大改造車と、憧れのスーパーカーという華やかさ。

しかも「世界一速いGT」と呼ばれ、速さと派手な音も兼ね備えています。メーカー対決もあり、推しメーカーがあるとより楽しめます。

ドライバー2名交代のセミ耐久レース。とにかく華やかで楽しいレース。イベントとしてもとてもよくできています。レースクイーンに美人が多い!というのも人気のひとつかも。

ニュルブルクリンク24時間レース

世界中の車が性能テストを行っている車の聖地、ニュルブルクリンクサーキット。このサーキットは現代的なサーキットである「南コース」(GPコース)と、途方もなく長く、道幅もせまく、うねり、石を敷いて補修してあるところすらもある「北コース」のふたつのコースがあります。

24時間耐久レースではこの2つのコースを連結して非常に様々なクラスのプロダクションレーシングカーがゴールを目指して競い合います。

コースは北コース20.832kmと、GPコース5.1km。なんと一周25km以上。しかも、GPコースは安全ですが、北コースは狭い上にコースの外側に安全な場所はほとんどなく、そんな場所を速さがまるで違う様々なクラスのクルマが、夜を徹して24時間走り続けるという、ものすごく過酷なレースです。

2016年のレースでは、24時間の果てに1位と2位の差がわずか0.6秒、フィニッシュライン通過時点で残り34秒だったためにあと一周エクストララップが加わり、そこで劇的な大逆転劇、ということがありました。

ニュルブルクリンクに継続的に参戦し、クルマを鍛えているのがトヨタ(トヨタガズーレーシング)とスバル。特にスバルは激戦のSP3Tクラスで何度もクラス優勝を果たしています。

ル・マン24時間レース(四輪)

今回ご紹介したル・マン24時間レースは、ニュルブルクリンクほどではないものの過酷、それに加えてものすごく速い!ということで注目のレース。ニュルブルクリンクが終わったら、数週間後にはル・マンです。

鈴鹿8時間耐久ロードレース

バイクレースなら鈴鹿8時間耐久ロードレース、通称「8耐」がお勧め。真夏に行われるので、とにかく暑い!熱い!

8耐はもう、とことんつきつめられているため、内容的にはセミ耐久並。ものすごい展開とドラマが待ち受けています。

MotoGPライダーが参戦したり、イベントとしてもとても華やかです。

全日本ロードレース選手権

バイクレースの国内最高峰ですが、現地観戦なら結構おすすめです。すいてるから!

もちろん、バイクレースはしっかり楽しめますよ。

Since: 2016-06-20 23:14:23 +0900
Last update: 2016-06-20 23:14:23 +0900
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